岩田恵子氏のベートーベン弦楽四重奏

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2月16日に朝日カルチャーセンターで、コンセルトヘボウの第1バイオリン奏者である岩田恵子氏の主宰する弦楽四重奏を聴いた。曲目は、ベートーベンの作品18-1弦楽四重奏第1番と作品95セリオーソ。4人の演奏者の個性が存分に発揮された良い演奏だった。

オーケストラの弾く交響曲とは違い、1人1パートを担う弦楽四重奏は、各奏者の弾き方が聴衆の耳に露わになる。だから、各奏者も存分に個性を発揮できるし、逆に各奏者の個性の感じられない弦楽四重奏は退屈である。今回は、第1バイオリンの岩田氏の翳りのある響きが圧巻だが、ビオラの井上典子氏が曲想の転換点で内声を強調しアンサンブルをリードしていたのも印象的だった。比べるのも失礼な話だけれども、電子オルガンの一本調子な弦の音色で弦楽四重奏の楽譜をなぞっても、弦楽四重奏の愉しさは分からない。そこには各奏者の個性がないから。

作品18-1と作品95の間のトークで、チェロの植木昭雄氏が、第2バイオリンのビルマン聰平氏ビオラの井上氏の間で、ある和音を明るく弾くか暗く弾くか論争があったことを紹介していた。こういう話を聴くにつれ、4人の演奏家たちが、単に高い技術を武器に巧みな演奏を目指すだけの職人ではなく、音楽の美しさは奈辺にあるかを探究する芸術家であることが分かる。今回の、各奏者の個性が光る弦楽四重奏も、このような弛まざる美の探究が根っこにあるのだろうと推測する。

岩田氏率いる弦楽四重奏団によるベートーベンの次の演奏は、今年 (2019年) の7月を予定しているそうだ。