移調楽器

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2月3日に、東京文化会館で、リッカルド・ムーティ の指揮するシカゴ交響楽団によるチャイコフスキー交響曲第5番を聴いた。第1楽章の冒頭が、荘重なコラールのようで印象的だった。その記憶を留めておきたいと思い、帰りにスコアを買い、家で眺めていたのだが、クラリネットのメロディーが、聞き慣れた調性でない気がする。その上、クラリネットとそれ以外のパートの調号が違う。ピアノで主なパートをなぞりながら、「聞こえていた音とは違う気がするけれど、この途轍もない不協和音こそが第1楽章冒頭の重厚な響きを生み出していたのか」と独り合点していた。

クラリネットが移調楽器であることは、その後に読んだ野本由紀夫『はじめてのオーケストラ・スコア スコアの読み方ハンドブック』で知った。同書の説明を引用すると、「移調楽器とは、楽譜に書かれた音符(記譜音といいます)と、楽器から実際にでる音(実音といいます)の高さが異なる楽器のことを」いう。チャイコフスキーの第5交響曲は、クラリネットにA管の指示があるから、実音は記譜音よりも短3度下となる。それならば調性は他のパートと一致する。

思い返せば、この間違いは今回が初めてではない。ベートーベンの第9交響曲の最後の2小節は、わたしには綺麗な三和音の連打に聞こえたが、楽譜を見たら大変な不協和音が書かれている。首を傾げながらも、楽譜上の不協和音を綺麗な和音に響かせる交響曲の魔訶不思議さに舌を巻いたものだった。しかし今になって思えば、クラリネットとホルン、トランペットが移調楽器で、実音は三和音ではなかったものの完全5度である。恥ずかしくて頭に血が上る。

何事にも先達はあらまほしきものなれ。